マネジメントとは、指示して終わりではありません。プロセスへの関わり方で、成果が変わってきます。さらに、マネジメントがめざすのは業務成果だけではありません。メンバー1人ひとりの成長にも責任があります。そこで、人と業務の成長を促進するための機能として、1on1が有効視されてきました。効果的な1on1を実践するために知っておきたいことを、まとめました。
■成長支援のための1on1
1on1という形で、上司部下面談の場を設けている会社が増えてきました。評価面談やキャリア面談として使うこともありますが、一般的には部下の自発的な仕事の進め方を支援する場としての意味合いが普及してきました。
『ヤフーの1on1―部下を成長させるコミュニケーションの技法』(本間浩輔著、ダイヤモンド社)という書籍がありますが、2012年から始められたこのヤフーでの取り組みが1on1の効果について、認識を広めた一端と言われています。人の自発性を引き出すことこそ、組織成果につながることが紹介されたのです。
ここで見ていく1on1とは、週1回、月1回などの頻度で、上司と部下が1対1の面談をするような場を指します。ポイントは、上司が部下のために時間を使うという考え方です。そこには、3つの特徴があります。
- 上司が指示するのではなく、部下が自ら行動するために支援する場である
- 部下の考えを引き出す、傾聴するといった対話スタイルが基本となる
- 目先の業務課題に限らず、関係性を築きながら多様な話題で成長支援を進めていく
■1on1が重視されてきた背景
前提として大きな環境変化の流れを押さえておきましょう。環境が激しい現在は、VUCAの時代と言われています。情報化やグローバル化の進展のなか、どの業界も、変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)に直面しているといえます。
そうした時代に、上司からの指示に基づいて動くばかりの集団だと、変化についていけない可能性が出てきます。あるいは、上司がすべて知っているとも限りません。また、もう1つ念頭においておきたいのは、人の持つポテンシャルです。
組織で働く人に関して、「人的資源」という言い方が一般的でした。それが今、「人的資本」という言いかたに変わってきています。つまり、人を「資源」として組織都合で「使う」という発想から、1人ひとりが持つ才能を発揮してもらうことが重要だという考えかたへとシフトしています。
人が才能を発揮するためには、意欲が欠かせません。意欲を高めてもらうには、自ら考え、能動的に取り組む状況が必要です。
■1on1を使っていくための準備
こうした背景から、1人ひとりに主体的に仕事に取り組んでもらうためのカギとして、1on1が重視されてきました。
では、1on1を効果的に活用するために、上司は具体的にどうすればよいのでしょうか。「準備フェーズと方針づくり」「実行フェーズと対話の工夫」「継続フェーズと話題の緩急」の3つの観点から見ていきます。
最初に「準備フェーズと方針づくり」
部下に任せていると、やり方が気になる点も出てくることでしょう。そこでついやってしまうのは、指示型のマネジメントです。1on1での対話を棚上げにして、「あれはやったのか」「これはどうなっているのか」「こうしたらいいんじゃないか」と次々指示を出していくと、結局部下本人は言われたことを実行するだけになってしまいます。
自発性を引き出すために1on1を導入したならば、それを軸にしたマネジメントのやり方に変えていく必要があります。上司自身がどのように1on1を使ってマネジメントをしていきたいか。方針を最初に定めておくとよいでしょう。たとえば次のような観点です。
- 1on1の頻度と、各メンバーとの開催予定を決める
- 日常のマネジメントにおける1on1の使い方を考える
- 日常のマネジメント以外の1on1の使い方を考える(キャリア支援のタイミング等)
- 各メンバーの特性を把握する(実行フェーズで対話を重ねながら把握することもある)
- 部内会議等で、1on1をなぜ実施するのか、どのような場として使っていくのかを周知する
1on1を実施する際のポイント
次に、「実行フェーズと対話の工夫」です。
今回テーマにしている1on1は、上司が部下に伝達したり教える場ではなく、部下が活躍するために使う時間です。だから対話のやり方も、部下にできるだけ話してもらい、課題解決に向けて部下が主体的に考えられるようなアプローチが重要です。
もう1つ意識したいのは、そもそもメンバー1人ひとりと信頼関係が築けているかどうかです。誰しも信頼関係がある人には話したくなるけれど、不信感を持っている相手には何も話そうと思わなくなるものです。最初の頃は特に、仕事の話よりも相互理解をするための対話が有効でしょう。
部下が主体的に行動するための1on1にするために、たとえば次のような観点に留意していきます。
- 開始前に、対話の流れを大まかに想定する
- リラックスして話せる雰囲気をつくる
- 問いかけなどを通じ、部下が主に話す場になるよう進行する
- 言葉だけではなく、表情や話のトーンも含めて相手の状態を把握する
- 気になる点をいきなり否定せず、理由や事象を確認してそれに基づく対話をする
- 上司がアドバイスや判断を常にする必要はなく、共に考えることも選択肢に含める
■1on1を軸にしたマネジメント
最後に「継続フェーズと話題の緩急」です。
1on1の場は、目先の業務課題からキャリアの話まで、幅広いテーマに使うことができます。こまめに継続的に実施することが1つの特徴ですので、その特徴を生かした活用をしていくとよいでしょう。
業務課題については、1回目の場で話し合い、次までの期間に試して結果を検証し、さらにまた次の打ち手を試していくといった仮説検証を進めていくこともできます。たとえば次のような流れを想定しながら、話題を調整していくことも考えられます。
- 期初の目標設定後、1カ月程度は進捗確認と相互理解の話題を中心に進める
- 1カ月後のタイミングで進捗状況を見ながら改善点を話し合い、いくつか追加実施策を試す
- さらに1カ月後に、追加実施策の結果を検証しながら部下のさらなる行動を引き出す
一方、本人が今の仕事に対して思っていることや、キャリア志向の把握も行っていきたいところです。今の仕事の意味づけやモチベーションにも影響してする情報かもしれません。話しやすいように「今年度の話はここまでにして、3年後を考えたときに…」「目標の話は今確認したので、今度は最近やりづらく思っていることなどを…」などと整理して振るのがよいでしょう。
話題に緩急をつけると、ぽろっと本音が出てくるかもしれません。そういう生の声が1on1を建設的なものにする一番の素材ですので、話題の出し方を工夫してみてください。
■FFSを活用して効果的な1on1を
ここまで見てきたように、1on1には対話が欠かせません。ただし部下の話を傾聴する、引き出すといっても、思ったような反応が返ってこなかったり、結局引き出し切れていないと感じる上司もいるかもしれません。
対話の違和感が起こるのは、自分と相手の思考が同じではないからです。たとえば上司自身が常にロジカルに考える思考が強いとします。すると部下にもロジカルな説明を求めたくなるのが通常です。しかし部下は考えるより前に行動したいようなタイプで、説明自体が苦手かもしれません。思考の違いがあるという認識がないと、上司は部下の説明の途中でつい口を出してしまうかもしれません。
FFSは、そうした思考の違いを表出する1つの手段に使うことができます。あらかじめ上司、部下それぞれのFFSデータがあると、準備フェーズにおける「各メンバーの特性を把握する」、実行フェーズにおける「最初の相互理解」。継続フェーズにおける「その部下にあったやり方でのチャレンジ」といったところが随分進めやすくなるはずです。
ぜひ、個性を生かした活躍を支援する1on1に活用してみてください。