採用で見たいのは、職場で活躍できる人かどうか


オンライン就活で『替え玉受検』が横行」――こんなニュースを目にしました。高得点をとって関門突破することをめざし、別人に依頼してしまおうという話ですね。もちろんあってはいけない話ではありますが、そもそも採用プロセスで使う「試験」は、点数の良さを競うようなものなのでしょうか。

採用の適性検査で生じた「替え玉受検」事例

コロナ禍を機に、オンラインで採用過程を完結する企業が増えています。オンラインで使えるツールが充実してきたことも影響しているでしょう。適性試験や面談でオンライン実施ができるようになったことが、採用プロセスの幅を広げたのです。

しかし、ここで一部の学生に生じたのが、「在宅で受ける試験は、身代わりの人がやってもわからないのではないか」という考えです。「どうしても面接に進みたい」「IDとパスワードを渡せば他の人でもアクセスできる」といった考えから、適性検査で「替え玉」依頼をしてしまう人がいるとのことなのです。

こうした事態を受けて、受検時の本人確認を工夫したり、防止機能を取り入れたツールもリリースされたりしています。しかし試験そのものが目的ではないはずです。

採用プロセスの手段はどう組み立てるのが有効なのか、改めて考えてみましょう。

職場で活躍できる人材の見極めは、どうやっておこなうのか

そもそも論になりますが、適性検査とは採用目的にあう人かどうか、を見極めるための手段です。一般的には能力検査と性格検査と2つの側面があります。知識や思考力などの問いは能力検査として用いられます。一定の水準以上かを確認する目的であれば、点数が高い方が好ましいと見られがちです。

一方、どういうタイプの人なのかを知りたい時には性格検査が用いられます。この場合、良しあしは関係ありません。どういうタイプをどのような割合でとるかの目安にしたり、配属後のマッチングを想定した時にどうかといった見方で使うことが多いのではないでしょうか。

能力検査で高得点を問うならば、学生にとって「替え玉受検」の意味も確かに出てきます。決してやってはいけないことですが、より高い点数をとって一次関門を突破しようという発想があり得る領域であるわけです。

しかし、性格検査に「替え玉受検」をしても、意味はありません。それどころか、仮にその結果で採用が決まったとしても、本人にとって不幸な結果にもなりかねません。採用側は「求める人材要件とあう」と判断して採用を決めたのに、それは他の人のデータによるもの。本人が「求める人材要件とあう」かどうかは判断できていないままです。

本来、適性検査は「その人は自社で特性を発揮できる人か」を見るための手段です。求める人材要件とあわない人材を採用してしまうと、その人の特性を活かせる仕事ではなかったり、周囲の人とコミュニケーションが進まなかったり、採用者本人が苦しい思いをしてしまいます。

そうしたミスマッチをなくすために行っているはずの適性試験。その意味が学生に伝わっていないことが、替え玉発想を生み出してしまう原因の1つでしょう。

個性データを活用すると「替え玉」の意味がなくなる

オンライン採用が定着してきたことで、企業としてもより多様な人材にアプローチできるようになりました。替え玉受検のリスクを恐れるのではなく、的確にツールを使い、採用プロセスを組み立てる方が有効でしょう。その時に整理したいのは、そもそもどの手段で何を確認したいかという点です。

たとえば、エントリーシートで書いてもらう論題で思考力をチェックし、その他の学力は問わないという方針を持ったとしたら、能力検査をやる必要はないかもしれません。また性格というより職場メンバーとの親和性を見たい場合は、焦点を絞って特性把握をする必要が出てきます。

FFS理論を採用に活用している会社もありますが、多くは次のような観点で運用されています。

  • 自社の求める人材像と、個性の部分でのマッチング観点
  • 職場の配属まで考えて採用者を検討する時に、個性の把握と職場や上司との相性観点
  • 採用者の主観に偏らないよう、データをもとに客観的に多様性を把握するための観点
  • 面談で特性にあわせた問いかけをできるようにし、本人の強みを引き出すための観点

適性ではなく個性(気質・性格・人格)をきちんと把握し、その個性が自社でどう生きるか、生かせるかという視点でデータを活用できるのがFFS理論の活用です。個人レポート以外に、面接用のレポートも出力できますので、自身の特性をわかって適切に行動できる人かどうか。という問いが出せるようになっています。

職場への適性のなかでも、個性の特徴と当人の自己理解度合いを確認したい場合などに向いているものです。

採用の観点はオープンに

そもそも、何を採用時には見ており、そのために何を使っているかという点は、オープンにしておくほうが受ける側の誤解を招かないことでしょう。採用後の活躍にも役立てるデータであることがわかれば、「替え玉」発想は出てこないことでしょう。

決して点数の高さを見ているのではないこと、個性データは育成にも活用するといったことを説明会などで伝えることで、受ける側も意図を理解するはずです。人の力の発揮を重視している会社であることが、ポリシーとしても伝わることになるでしょう。

替え玉受検がそもそも意味をなさないような採用プロセス設計も、1つの考え方ではないでしょうか。

(参考)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211019/k10013311631000.html