「いいストレス」と「悪いストレス」


メンタル不調者が出てしまうのは、マネジャーの一番の悩みかもしれません。それも「どうしてこうなったかわからない」「どうしたらよかったのだろう」と思ってしまうのが一番悩ましいところ。本質的な解決がされないまま、不調者の復帰時期を迎えても、おなじことが起きてしまいます。また職場内でさらなる不調者を生んでしまうとか。そんな事態は誰にとっても避けたいものです。

「ストレス」はよくないもの、と認識していませんか。そもそもストレスはどういうものなのか。なぜ、ある環境である人がストレスを感じてしまうのか。こうした点をただしく理解するだけでも「わからない」状況が一歩改善されるはずです。

何かしらの緊張状態が「ストレス」のもとに

 「ストレスを感じている」と相談を受けたら、どう捉えますか?

 おそらく、「それは大変だね」「大丈夫!?」という反応が起こりがち。つまり「ストレスを感じる=ネガティブな状況にある」と思うからでしょう。

 もちろん、その捉えかたは間違っていません。ただし、より正確にいうならストレスが生じるのはネガティブな場合には限らないということ。たとえば厚生労働省のホームページには、次のような説明が載っています。

「そもそもストレスとは、外部から刺激を受けたときに生じる緊張状態のことです。外部からの刺激には、天候や騒音などの環境的要因、病気や睡眠不足などの身体的要因、不安や悩みなど心理的な要因、そして人間関係がうまくいかない、仕事が忙しいなどの社会的要因があります。つまり、日常の中で起こるさまざまな変化が、ストレスの原因になるのです。たとえば、進学や就職、結婚、出産といった喜ばしい出来事でも、変化であり刺激ですから、実はストレスの原因になります。」

1.ストレスって何?| 厚生労働省

 つまり、普段とはちがう変化、自分にとって刺激となるものが、何かしらの緊張状態を起こすということですね。ネガティブな場合であれば「自分にとって困った刺激があり、平常心を乱している」とでも言い換えられるでしょうか。

一方、初舞台を前にした役者さんが「はじめて迎える瞬間を目の前にした緊張状態で、平常心ではいられない」というのは、ポジティブなストレス状態かもしれません。「やりたくない」ではなく、刺激の最中にいるわけです。

ストレスには「いいストレス」と「悪いストレス」がある

日常的に一定のストレスはつきもの。ストレスがないのはかえって不自然な状況です。適度なストレスがあってはじめて、人は力を発揮すると言われています。もちろん、過度はよくありません。つまるところ、「いいストレス」と「悪いストレス」があると考えておきましょう。

 「いいストレス」とはどういうものか。それは、その人の個性をポジティブな方向に発揮させます。一方、「悪いストレス」はその逆。その人の個性をネガティブな方向に発揮させます。

原因となるのは、外的刺激(ストレッサー)です。ストレッサーをうまく受け止めて対応できればプラスに変えていけますが、うまく受け止められない、制御できないときには、不適応が起こってしまいます。

 「悪いストレス」は、心身にさまざまな影響を及ぼしてしまいます。眠れない、お腹が痛いなど、症状が現れていたら要注意。無自覚のまま悪化することもありますので、兆候は見逃さないようにしたいものです。

 なお、「悪いストレス」による心理的負荷は、仕事上のリスクになってきます。ストレスチェックが従業員50人以上の事業所に義務化されたのもその一環。安心して活躍できる労働環境の重要性が社会的に認知され、「悪いストレス」の課題と対策について、公的な指針も示されるようになってきました。

ストレスにより、個性の発揮方向が変わる

 ストレス値については、FFS理論でも定量化し、重要な情報として扱っています。

 最初に確認するのは、ストレスが適正数値内かどうか。ユーストレスと呼ばれる適正数値内にあるときは、個性はポジティブに発揮されます。自分で考えて行動できる状態。だから、仕事の能率もあがります。

一方で、ストレスが高すぎる(ハイパーストレス)、または低すぎる(アンダーストレス)状態においては、個性のネガティブ面が発揮されがちです。

 たとえば、自分の価値観を強く持っている人がいるとしましょう。その人の強みは、自身の考えを明確に打ち出せること。方向づけをしたり、決断をしたり、使命感や正義感が強いとも言えます。しかしその分、頭ごなしに否定されるような環境に置かれると、大きなストレスが生じます。

環境に適応できないなかで、せっかくの個性はネガティブな方に発揮されていきます。たとえば、正義感・使命感の裏返しとしては、独善的になったり、支配的になったり。自分の考えにあわないものを受け入れず、どんどん排他的になってしまうこともあります。

 一方、自分の価値観を強く押しだすよりも、他者に役立つことが何よりもうれしいというタイプの人にとっては、頭ごなしに否定されたとしても、一回それを受け止めることができます(もちろん個人差はあります)。

しかしこの個性の人は、否定よりも存在をないがしろにされる方がつらいこと。発言しても無視されたり、重視されなかったりするとストレスが高まり、「もういいわ」と逃避的な行動に走るかもしれません。

組織が取り組むストレスマネジメントとは

どうでしょう。同じシチュエーションでもストレスを感じる人、感じない人がいるわけです。ストレス対策を考えるときに、「人間関係」「職場環境」などと共通要因を探しがちですが、本質的なストレスマネジメントは個々の状態理解が欠かせません。

 まず必要なことは個性によるちがいがある、と職場メンバー全員が認識すること。特にマネジャー層の理解は必須です。メンバーに対して「どうして自分と同じようにできないのか」「自分はこうやってやってきた」と思い、押しつけがちなのは、個性の違いを理解していない上司の典型例です。自分のやり方を押しつけるほど、部下の不適応が起こってしまいます。

 次に取り組みたいのは、個性ごとのストレッサーやモチベーション要因を知り、活用していくこと。ここではFFS理論を使っていますが、他にも手段はあります。いずれにせよ、個性に影響している要素に働きかけることで、ストレスマネジメントをおこなっていくというフェーズです。

FFS理論はそもそも「ストレスと性格」の研究をもとに確立された理論です。たとえば「受容性」因子が高いAさんが、「放任主義の上司」のもと、「他部署や顧客からのさまざまな相談事」や「入社したばかりの部下指導」に忙殺されている環境下にある、と想像してみてください。

 受容性が高い人は相談されたら「何とかします」とできるだけ引き受けたいと思うタイプですが、どんどん積み重なるとさすがに疲れてきます。危ないサインは、「もういいですよ、私がやりますよ」と自虐的な発言が増えるときです。

また、相手から「ありがとう」と感謝されることで喜びを感じるのに、いくら仕事をしても「やってくれて当然」と流されてしまうのも要注意。「せっかくやったのに、全然わかってくれない」と投げやりになっていくこともあります。

ストレスマネジメントをきっかけに、個も組織も成長

 このようにストレスが高まってしまったAさんの場合、1つずつ要因に働きかけていきます。今回でいうとまず、上司がしっかりとAさんの取り組みに目を向けることが1つめです。できたことをほめたり感謝したりするだけで、Aさんのモチベーションは随分変わるはずです。

 そして、Aさんの仕事量や状況を見ながら、過度な状況を是正していきます。単純に仕事量を減らすわけではありません。他部署からの相談に何でも「はい」と言い過ぎているのが要因であれば、Aさんと話し合って、「他部署とこういうルールをつくる」という対処がよいかもしれません。

 個の活躍と全体最適を両方から考えて取り組むのが、「ストレス対処」ではなく「ストレスマネジメント」の意義。積極的に取り組み、1人ひとりが個性を生かし、組織も成長するための後押しにしていきたいものです。

FFS理論では個性因子分析のときに同時に「ストレス値」も可視化します。定点観測していくことでストレス値を算出し、さまざまな人事施策に活かしていくことができます。経験・知見・勘ではなく、データをもとに人事施策を立案し、働きかけていく経営にシフトすることができるのがFFS理論導入の醍醐味です。

実際にストレス値を活用した人事施策を運用されている企業はおおくいらっしゃいます。ご関心があれば【FFS理論×本郷横丁】へのご参加、もしくはお問い合わせいただけると事例案内ができます。