先日、こんな話を聞きまして、思うところがあったのでシェアします。「インフルエンザ流行っているの?」というより現在は「流行拡大期」だそうです。 これからも増えうるケースだと思いますので、参考になれば幸いです。
- 部署の一人が、インフルエンザ治りかけと思われる症状(声が出ない・咳・37度前半)の状態で出社
- 同じ部署4人に感染 → 2〜3日後に全員インフルエンザ陽性と判明
- 40度を超える発熱と全身の痛みで、5人とも6日間寝込む
- 結果として、部署としてはほぼ機能停止
体調不良をおして出勤するのはよく聞く話ですが、感染症対策はコロナであれだけ経験したのに、なぜまた繰り返すのでしょうか。
インフルエンザは感染症
インフルエンザも、飛沫感染(咳やくしゃみのしぶき)と接触感染(ウイルスが付着した場所を触った手で、口・鼻・目に触れる)が主な感染ルートです。社内ではとくに「接触感染」多いんです。ドアノブやエレベーターのボタン、デスク、椅子周りなど手に触れるところは多いですしね。
「なぜこんなことが起きたのか?」
「再発させないために、会社として何を整えるべきか?」を整理してみます。
1. そもそもなぜマネージャーは出勤してしまったのか
本人の中では、きっとこんな要素が混ざっていたはずです。
- 「自分はまだ大丈夫」「今日だけ乗り切ればなんとかなる」という楽観
- 「自分がいないと回らない」という責任感やプレッシャー
- 「このタイミングで休むのは気まずい」という空気
- インフルエンザが「発症前後がいちばん人にうつりやすい」という知識が薄い
- 風邪っぽい症状で休むな、という組織文化の圧力
- インフルエンザで休むと「欠勤扱い」になる
「個人の根性論」だけで片づけると、同じことがまた起こります。
大事なのは、
● こういう判断を“しなくて済む”ように
組織側で仕組みとメッセージをつくれていたか?
という視点です。
2. そもそも規則はあったのか、周知されていたのか
このケースの裏側には、だいたい次のどれかがあります。
- 感染症に関するルール自体があいまいすぎる
- 「何度以上の発熱なら出社NG」
- 「咳や喉の痛みがあるときの連絡フロー」
- 「診断が出た後の出勤停止期間の目安」
- こうした“行動レベル”のガイドラインが明文化されていない。
- ルールはあるけど、運用されていない
- 入社時に配られたきり誰も見ていない
- 日常のマネジメントの中で話題にならない
- 実態としては「多少の熱なら出てくる人が多い」状態
- 管理職向けの知識共有が足りない
- 「部下に出社を促さない」「むしろ帰宅を指示する」責任が言語化されていない
- 健康リスクより「目の前の業務」が優先されがち
このあたりが整っていないと、 結果として「具合悪いけど、とりあえず来ました」が発生します。
3. 「多少の体調不良なら出勤したほうがいい」の線引き
ここをあいまいにすると、また同じ事故が起きます。
- 単なる寝不足・軽い疲労・軽い頭痛 → 調整しながら出勤という選択肢もあり得る
一方で、
- 発熱+咳・喉の痛み・悪寒など、「感染症の疑いが強い症状」がある場合は、
- もはや「本人のがんばり」の問題ではなく、職場全体のリスク管理の問題です。
今回のように、
- 1人の「無理して出る」という判断
- 部署5人が6日間ダウン
- 顧客対応・プロジェクト進行・他部署へのしわ寄せ
という流れまで含めて考えると、
● 感染症が疑われる状態での出勤は「評価されるがんばり」ではなく、
「組織にとってのリスク行動」
として扱う必要があります。
4. ざっくり試算する「経済損失」
感情論だけだと動きづらいので、あえて数字にもしてみました。
- 対象人数:5人
- 休んだ日数:6日
- 1人あたり1日の人件費(給与+会社負担分):仮に 20,000円 とする
直接的な人件費のロス:
5人 × 6日 × 20,000円 = 60万円
さらに、その部署が生み出していた売上や成果があるとすれば、
1人あたり1日の売上貢献を 50,000円 と仮定すると、
5人 × 6日 × 50,000円 = 150万円の売上機会損失
ここに、
- 他部署のフォロー時間
- 納期遅延による調整コスト
- 顧客への説明・リカバリーの工数
などを足していくと、実際の損失はもっと大きくなります。この数字を見てみると、
● 「ちょっと無理して出勤」のつもりが、数百万円規模の損失を生むこともある
ということがわかります。
5. 人事・経営として、これから整えるべきこと
① 感染症対応ルールの明文化
最低限、次ははっきり決めて、誰でも見える場所に置くのがよさそうです。
- 「発熱 ○度以上」+「咳・喉の痛み・悪寒などの症状」があれば出社NG
- インフルエンザ・コロナなどの診断が出た場合の出勤停止期間の目安
- 会社への連絡フロー(上長/人事/総務など)
- 管理職の役割として
- 体調不良の部下に出社を求めない
- 状況を見て早退・在宅を指示する責任があることを明記
② 管理職向けのケーススタディ研修
今回のような事例を、あえて教材にしてしまうのも手です。
- 「自分がこのマネージャーだったら、どう判断すべきだったか」
- 「判断の違いが、どれくらいの経済損失の差になるか」
を、数字込みで一度体験しておくと、次から迷い方が変わります。
③ 体調不良で休みやすい風土づくり
- 「無理して出勤」は評価ポイントにしない
- 体調不良による欠勤・早退を責めないことを、明文化して管理職に伝える
- 在宅勤務が選択できる部署は、その切り替え基準とフローを明示する
「休んでいい」と言いながら、 実務では「は?マジで休むの?」という
空気が出てしまうと、誰も本音で申告できません。体調不良のときに
「がんばっているアピール」は不要です
④ シーズン前の予防・リマインド
- 秋〜冬に入る前にインフル予防の案内
- 手洗い・マスク・換気・加湿などの基本行動
- 「ちょっと変だな」と感じたときの行動フロー
を、毎年Slackで軽くリマインドするだけでも、現場の判断は変わっていきます。
インフルエンザのとき、脳の中では何が起きているのか
インフルエンザは、全身の感染症です。
数年前には、プロ野球のキャンプ各地でインフルエンザが蔓延し、
紅白戦どころか練習に選手が出てこられない事態に陥った、という報道もありました。
さて、インフルエンザにかかると肉体だけではなく、脳もその影響をかなり受けます。
1. 免疫反応と「病気モード」
ウイルスが体内に入ると、免疫細胞がいわゆるサイトカインという物質を出します。
これが血液を通じて脳にも届き、こんな反応を引き起こします。
- 発熱(体温の設定温度が上がる)※今期は39-40℃までいっきにあがるようです
- 強いだるさ・倦怠感と全身痛
- 食欲の低下
- 集中力の低下
- 眠気やぼんやり感
これは、体にとっては「ちゃんと休んで、回復にエネルギーを使ってね」という防御反応です。
2. 前頭前野のパフォーマンスダウン
判断・計画・感情コントロールを担う前頭前野は、
- 高熱
- 全身の痛み
- 睡眠不足
- 栄養状態の悪化
が重なると、一気にパフォーマンスが落ちます。
その結果、
- 判断ミスが増える
- 注意力が続かない
- イライラしやすくなる
- 普段ならしない選択をしてしまう
など、「仕事の質」そのものが下がった状態になります。
3. 「脳の節電モード」に入る
体がウイルスと戦っているあいだ、脳はフルパワーでは動きません。
- 情報処理スピードが落ちる
- 人の話が頭に入ってこない
- 普段は何でもない作業がものすごく負担に感じる
これは、意志の問題ではなく、
脳が意図的に省エネ運転に切り替えている状態です。
インフルエンザのときに出社することは、
「仕事への熱意」や「責任感」の表現ではなく、
場合によっては部署全体の機能停止と大きな損失につながるリスク行動です。
- 感染症への知識を“行動レベルのルール”に落とすこと
- BCPの中に「人が一気にダウンしたときの前提」を組み込むこと
- 体調不良を正直に言いやすい風土をつくること
この3つを整えていくことで、同じような事態はかなり減らしていけます。

