リモートワークがすすむ組織の生産性は、日常トレーニングで変えられる


リモートワークが進むほど「何言っているのかわからないよ!」と言いたくなるメールやチャット、あなたのもとに届いていないでしょうか。人それぞれ、思考のクセはあって当然。しかし、人に伝わらない表現では困ってしまいます。まずは、日報・週報レベルで情報の有用性を高め、建設的な組織づくりの第1歩にしてみませんか?

デキる人は、メールもチャットも的確

もしあなたが部下をもつ上司だとして。部下からの日報や週報を見たときに「ホントに予定通りやったのかな?」「お客さんから言われたことをごまかしていない?」と気になる点、結構あったりしませんか。部下に悪気はなくても「どうも理解しがたい」「結局何なのかわからない」といったツッコミをしたくなるような日報が、身近に散見されます。

もしそんな状況が起こっていたら――放置するのは危険です。ほんとうに必要な報告が流れてしまったり、結果が間違ってつたわったり。組織がだんだん不健全な方向に向かってしまう兆候だからです。

デジタルツールが発達し、メール・チャットでのテキストコミュニケーションが多くなってきた時代だからこそ、この点に気づけるかどうかが今後の事業成長を左右するくらいに重要なことです。

コロナ禍以降リモートワークが広がりはじめました。きっとこれから先もリモートワークというスタイルは増えていくことでしょう。この加速によって情報を文字(テキスト)でつたえる場面が増えることになりました。

顔をあわせない分、表情や声色などの情報は減ってしまっています。だからこそ、文字伝達では過不足がないようにしないと、確認の二度手間や、いき違いのトラブルを増やしてしまいます。

いまアチコチで起きていること。

ナゾな文章は、なぜ生まれてしまう?

部下からの日報を例に考えていきましょう。ツッコミしたくなるような文章は、基本的には「事実」と「意見(気づいたこと・考えたこと・行動の理由等)」が分けられていないという問題が大半です。

たとえば、こちらの文章。とある会社の営業メンバーからの日報の例として見てみましょう。

今日は朝2件、午後1件。オンラインでのアポイントをとり、1件のA社は面談したものの、先方の関心は○○にあるとのことで、当社の△△サービスの案内については切り替えが難しいような気がします。昨日連絡したB社にその後メールを送ったのですが、その返信はなく、別途新規問い合わせがあったC社に資料を送りました。

結局何が進捗した?今日は何件商談をして、それぞれどういう結果だったの?

つい、こう聞きたくなるような報告ではないでしょうか。こんなやりとりが生まれてしまう理由は、大きく2つです。

  1. 思考的に「事実」と「意見」が分離できていない
  2. 思考的に分離はできているが、文章にしたときにうまく書けない

「事実」と「意見」にわけるのは、案外むずかしい

先ほどの例を、「事実」と「意見」に分けてみましょう。この作業が[1.]に対応します。

(事実)

  • 今日は朝2件、午後1件、オンライン商談をおこなった
  • そのうち1件(A社)は、関心が○○にあるといった。
  • 今日はその他に「昨日連絡したB社へのメール送付」と、「新規問い合わせのC社への資料送付」をおこなった。
  • B社からは、送ったメールへの返信はない。

(意見)

  • A社の○○という関心に対して、当社の△△サービスは整合しづらく、切り替えてもらうのは難しいように思う。

なお、この文章には[2]の問題も含まれています。冒頭に「今日は朝2件、午後1件オンラインでのアポイントをとり」と書いてしまったために、今日は商談をしたのか、アポイントをとっただけなのか、わかりづらくなってしまっていました。また続きの文章で表しているぶん、要点を把握しづらい書きかたになってしまっています。

「事実」と「意見」をわけられる人、わけられない人の違い

「A:事実意見を分けて扱うチカラ」、そしてそれを「B:文字で的確に表すチカラ」は、ビジネスの基礎スキルそのものです。従来から当然必要とされてきましたが、リモートワークがすすむ組織の生産性面から、重要性がますます高まっています。

この力は誰でも高めていくことができます。もちろん、急にレベルアップできるというわけではありません。弁別力思考力を高めること、思考の言語化に慣れること、そしてそれを習慣化すること。この繰り返しで、徐々に身についていくのです。

弁別力とは、ちがいを識別する力です。そもそも頭の中で、「事実」と「意見」がごっちゃになってしまっている場合はありませんか。「拡大解釈する」「都合よくとらえる」といったといった事象も、弁別力の弱さからきているかもしれません。

あのお客さん、たぶん受注できますよ

ウチの製品いいって言っていましたよ

こういった報告を受けたとしたら、それはなんの事実報告にもなっていないと捉えましょう。そして上司としての問いかけは

具体的に「いつ発注する」って言ってくれていたの?

あるいは

なにがいいと言っていた? 実際に購入するといった言葉はあった?

と返信をしてみてください。これが事実を確認する問いです。

根拠なくこうした報告をしてくる人は、弁別力を働かせず情報を伝えてしまうクセがついてしまっている場合があります。そこで問いを返すと、「あ、確かに」と本人が気づく機会になります。問われて考えるという行為そのものが、弁別力を鍛える一助になるのです。

思考力を高めるための、建設的な問いかけ方法

もう一歩踏み込んでみましょう。弁別力を高めるだけではまだ、的確な事実意見があがってくる状態とはいえません。なぜ自分はその意見を持ったのか。あるいは、その事実は何を表しているか。「で、どうなの?」というツッコミにも応えられないと、次のアクションにつながりません。

たとえば冒頭の例で、「新規問い合わせのC社に資料を送った」という話がありました。事実報告なら、これを伝えれば完了です。しかし大事なのは、報告をすることだけではなく、きちんと受注目標に向かった行動をしていくこと。

そう考えると報告をする当事者は「C社はどういう経路で問い合わせをしてきてくれたのか」「資料を送った後どんなフォローをするとよいか」と考えながら報告をすることが重要です。

この力も、問いかけられる中で高めて行くことができます。

ここ1週間で〇件、同様のケースが出ているから次回のチーム会議で共有してはどうかな?

勝ちパターンを増やすために、どんな施策が考えられると思う?

と、日報を見た上司や同僚が、意見や質問を返すことが、本人の思考を促します。

1回目は問われたままに考えるだけかもしれません。しかしこのやり取りを何度もくり返すことで、「言われる前に一度考える」「次のアクションにつながる言いかたをする」という思考が定着していきます。その結果、「自分の言葉」で報告するという仕組みが実現されていくのです。

思考の言語化力を高めるために、日報や週報を活用する

弁別力思考力も高まってきた——しかし、文章にするのは苦手。という人がいるかもしれません。報告系の場合は、箇条書きをうまく使うとよいでしょう。

はじめから「事実」と「意見・気づき」を分けたフォーマットをつくるのも有効です。文章化・言語化が苦手な人は、一度にまとめて書くのではなく、「何があったか(事実)」「その時に何を思ったか。それはなぜか(意見気づき)」短文で1つ1つ順番に記すことをまず促します。

本来は、要点だけ報告できれば十分です。ただし、もし文章化・言語化が苦手な人がいるならば、まずはわけて書き出し、次に優先順位をつけ、最も重要な点を報告書に記す。という練習をするのがスキルアップの近道になるのです。

一段上で考えられるから、コミュニケーションの質が変わる

日報や週報は「弁別思考言語化」を習慣化できるいい機会です。自分や部下の「思考のクセ」にも気づきやすくなります。

「自分の考えを、つい事実に加えてしまいがち」「発想が飛躍しがち」「自分視点で表現してしまう」等々、上司や同僚から問いかけられる中で気づくこともあるでしょう。

実はこのように自分の思考行動を振り返ることができるのは、俯瞰的に見るチカラがついた証拠です。「メタ認知思考」とも言いますが、自分や他者の思考を客観的に理解できるとズレのないコミュニケーションにつながります。

「自分はこう考えがちだから気をつけよう」「相手はこういう思考だから、説明方法を変えよう」といったことが自然と頭に浮かび、的確なコミュニケーションがとれる度合いがあがるからです。

報告・連絡・相談・意見・提案等々、要点がモレなくズレなく、どんどんやり取りされると組織の意思決定スピードも速くなります。

それがテキストコミュニケーション上で実現されているのは、リモートワークがすすむ組織の生産性向上の第一歩。コロナ禍でコミュニケーションスタイルが変化している今、日常的な問いかけで組織的なレベルアップをはかってはいかがでしょうか。