「人手不足だ」「なかなかいい人が採用できない」という課題を抱えているかも知れませんが、せっかく採用した人が辞めてしまってまた採用……と繰り返していませんか。弊社が転職支援サービスをしていたとき、いちばん相談されたのは実は「離職率」でした。
人が辞めなければ、計画外の採用課題が減らせます。採用活動に向けた熱心なSNSの発信を見かけることもよくありますが、めざしたいのは人の出入りばかりで疲弊する組織にならないこと。そこで力を注ぐべきは、リテンションマネジメントです。今いるメンバーが活躍し、組織が維持していく状態こそ、安定的に成長する組織づくりの基盤となります。
リテンションマネジメントとは
リテンションとは「維持・保持」といった意味で、リテンションマネジメントとは従業員との関係性を保っていく人事管理、組織運営のことを指します。リテンションマネジメントでめざすのは、活躍する社員が継続的にその組織で力を発揮し続けることです。
逆の側面から見ると、離職やメンタル不全、生産性の低下といったことを起こさないための取り組みです。時には「高業績社員の引き留め」としてリテンションマネジメントが使われることもありますが、ここでは広く全体的に捉えます。それぞれが役割を意欲的に果たす組織づくりが、結果的に高業績社員の数も増やし、継続的な活躍を後押しすると考えるからです。
リテンションマネジメントで考えるべきは、外発要因と内発要因と両面です。これはモチベーションマネジメントにおける外発的動機づけ、内発的動機づけと関連します。
外発的動機づけとは給与や役職など、本人の外部で定められているものです。外発的な項目は、低いとモチベーション低下を引き起こしますが、一定の高さ以上はあまり影響しないという研究もあります。(『人を伸ばす力』エドワード・L. デシ (著), リチャード フラスト (著), 桜井 茂男 (訳)(新曜社)に記されている「ソマパズル」の事例を参照)
一方、内発的動機づけとは、本人の関心や認められることの喜びといった内面部分です。これが低いとモチベーション低下を引き起こすのは同様ですが、高まれば高まるほどモチベーションにも好影響をもたらすという特徴があります。
働く意欲は、外発要因と内発要因の両方が関わる
外発要因と内発要因を、もう少し見ていきましょう。
外発要因:
待遇や福利厚生といった、当人を取り巻く外部環境項目です。「待遇が悪い」という理由で退職を考えたり、「福利厚生が充実した」ことで会社の印象がよくなったりすることがあるでしょう。待遇といっても、さまざまな観点があります。給与水準全体で見る場合、給与水準ではなく従業員個人にとっての不満がある場合、各種手当や休暇制度等によって他社の方が魅力的に見える場合などです。
外発要因の改善は、計画的におこなう必要があります。たとえば「離職者が多いから、全体の給与水準をあげよう」という打ち手は一定の効果がありますが、給与があがった状態が「普通」になると効果そのものは薄れていきます。また、特定の人にだけメリットを設けると、対象外の人からは反発が起きがちです。場当たり的な施策にならないかの検討が必要です。
内発要因:
仕事のやりがい、働きがいといった、当人の内面に関わる項目です。認められる、期待される、感謝されるといった、人との関わりも影響します。特に、自己肯定感が得られないと感じている人、承認欲求が満たされないと感じている人は、その職場で働き続ける意味を見失い、離職に向かいやすくなってしまいます。
内発要因の改善は、仕組みや制度をつくればよいというものでもありません。何がやりがいにつながるか、あるいは損なう原因となるかは、人によって異なります。そのために必要なのが、個々人の思考行動特性を知ることです。
内発面への好影響づくりがリテンションマネジメントのポイント
たとえば「自分のことをわかってくれない」と思えば思うほど、職場やメンバーに心理的距離感が生じ、ひいては離職の一因にもなる可能性があります。「わかってくれている」感は、相手の思考行動にあわせたコミュニケーションがとれるかどうかが影響します。
FFS理論は、そうした個性の把握に役立つ1つの手段です。個々の特性を活かすことは、次のような内発面への好影響が考えられます。
日常のコミュニケーションギャップが減らせる
FFS理論は5つの因子をもとに各人の思考行動を示します。またお互いの因子が違うとどのようなコミュニケーションギャップが生まれやすいかを知ることもできます。(ストレスという刺激をうけたときにポジティブ/ネガティブどちらの反応がでてくるかを予測できます)。
日頃から因子とストレス反応を踏まえたコミュニケーションができるようになると「わかってくれない」「周りと合わない」「思考の違いにイライラする」といったことが解消でき、定着を阻害する要因が1つ減ることとなります。
強みを活かしたアサインメントができる
FFS理論を活用すると、どういう強みを持った人かが見えてきます。「強みを活かしてこういう場で活躍をしてほしい」と伝えることができるなら、ただ業務を指示されるよりも面持ちが変わってくることでしょう。ポジティブな反応を引き出すことこそ、マネジメントの最重要業務です。
その結果、メンバーにとっては自分が活躍できる場がある、期待されていると思うことは、リテンションを高めるための大きな要因です。転職の理由の80%は人間関係に依るものというデータもあります。つまり人間関係を再現可能な科学することで、働きやすい/働きがいのある職場をつくることができるのではないでしょうか。
相互尊重できる職場となり、多様な人が活躍しやすくなる
FFS理論を職場全体の共通言語にすることができると、個性の違いを尊重できる職場へと進化します。離職に至る原因のなかには「職場になじめない」「考えかたの違いが多い」といった孤立感、異端感が影響することがありますが、違いを活かせない職場は画期的なアイデアも生まれづらいものです。
多様な人が活躍できる職場になると、異質な人のリテンションにつながりやすく、ひいては組織の活性化にも寄与する流れがつくれていくのです。
ストレス値の把握で個別のリテンション対策も可能に
またFFS理論ではストレス値の変化を重視し、ストレス診断を定期的におこなうことを推奨しています。ストレス値が過剰、あるいは過少になっている人は、何らかの理由で個性が活かせていないことが想定されます。放置しておくとどんどん状況は悪化していきます。ストレス値の推移が把握できると、個別のリテンション対策が即時でとりやすくなります。
リテンションマネジメントの面からは、次のような活用ができます。
FFS理論に基づき、個性を把握する(診断全体を最初におこなう)
- 定期的なストレス診断で推移を把握する(3カ月に一度などの目安で実施する)
- ストレスの過剰/過少メンバーがいたら、観察等で状況把握しつつ、上司や人事と情報共有する
- 人事部、マネジメント層がストレスに対する正しい知識と理解をもつ
- 当人との面談で、個性発揮の阻害要因を引き出しつつ改善可能性を探る
- 事前に「何回以上過剰/過少ストレスが続いたら○○面談と異動を選択肢にする」などと目安を決めておき、環境改善も含めた対策の可能性も持つ
日常のマネジメントに組み込む
いくら待遇がよくても、自身の存在がないがしろにされていると思えば仕事へのコミットメントも下がっていくことでしょう。そうした状況は、ストレス値にも如実に表れてきます。ストレス値で状態把握をしつつ、悪化した場合は早期に内発要因での改善に取り組める仕組みを、リテンションマネジメントの基本に据えてはどうでしょうか。
日常のマネジメントとして運用しつつ、全体的な変化をもたらしたい時には外発要因の対策と組み合わせることもできます。ぜひ、一人ひとりが個性を活かして活躍できる職場づくりをリテンションのカギとして進めてみてください。